外資の年始は人事異動から ? ( その 1 )

source from http://www.daijob.com/columns/takashi/article/1109
―――秘書からの不吉な電話―――

トゥルルルルルー♪ トゥルルルルルー♪


年末も押し迫った 12 月 29 日の夕刻、「いやぁ、今年も頑張った、頑張った ・・・ そろそろ仕事納めして、帰ろうかにゃ ・・・ 」 ということで、 PC の電源を落として、席を立ちかけた私。突然、携帯がけたたましく鳴りました。


(T−T)  非常にイヤな予感と寒気がします。ブッチして帰ろうかな、と思ったのですが、何か問題を抱えたまま新年を迎えるのも気持ち悪いし。しぶしぶ電話を取ると、聞きなれた声。


「もしもしタカシさんですか ?  秘書のアキコですが ・・・ 」


上司の Thomas の秘書をしているアキコさんです。年末最終日のこの時間に、 Thomas の秘書さんから電話 ・・・ ろくな話でないことは、容易に想像がつきます。私は、ブッチして帰らなかった自分を呪いながら、話を続けました。


私 「どうしました ? 今ミーティング中なんで、簡単に要件だけ ・・・ ( ミーティング中って ・・・ うそつけ ! 帰ろうとしとったやんけ ・・・ ) 」


アキコ 「お忙しいところ、すいません。人事異動のことなんですが ・・・ 」


私 「人事異動って ? いつの ? 」


アキコ 「 1 月 1 日付です。 5 分ぐらい前に、 Thomas からタカシさんにメールしたようなんですが ・・・ 返事がなかなか来ない、って、Thomas がイライラしてるもんで ・・・ 」


私 「 ・・・ ( あ、あのなぁ ・・・ ) 」


5 分前に送ったメールの返事をイライラして待つ Thomas もどうか、という感じですが、それよりも何よりも、 1 月 1 日付人事異動の相談を、暮れも押し迫った 12 月 29 日にやるなよ ! と言いたくなります。あと、 3 日しかないやんけーーー !


タカシ 「 ・・・ ちょ、ちょっと待ってくださいね、今確認しますから ・・・ Thomas からのメール、っと ・・・ お、これだな、どれどれ ・・・ 」



―――ボスからの無理難題―――
 


メールに書いてあることを簡潔にまとめると、以下の通り。


・ タカシの現行チーム ( 20名 ) を 2 分割し、タカシと A さんをリーダーとする
・ 新しいチームは、 IT 戦略 ( IT Strategy ) とプロセス戦略 ( Business Process Strategy ) とする。各チームの陣容は、タカシと A さんが素案を作り、 Thomas が承認する
・ 本件は、 1 月 1 日より実施


「んなもん、できるかっ ! 」


私のチームを 2 分割して、もう一方のチームリーダーを A さんにするのはいいとしましょう。 Aさんならしっかりしていますし、リーダーを任せても大丈夫です。加えて、各チームの人選案を、私と A さんに作らせるというのも、まぁ、良しとしましょう。し、しかしですよ、みなさん ! その案を Thomas に承認してもらって、1月1日付で人事異動を発令するなんざ、時間的にどう考えてもできるわけがありません。年末の 2 日しかないやんけーーー !


私 「アキコさん、こりゃ時間的に、かなり無理があると思うんですがね。ま、Best effort っちゅうことで、やるにはやりますけど ・・・ ちょっと、 Thomas に代わってもらえます ? 」


アキコ 「 Thomas さんなら、さっきお帰りになりましたが ・・・ 」


私 「へ ? 私の返事が来ないと、イライラして待ってるんじゃ ・・・ 」


アキコ 「いや、私は Thomas がイライラして待っていることだけ伝えたかっただけでして ・・・ Thomas の計画では、本日中にタカシさんと A さんが話し合った人選案が送られてきて、明日の朝一で人事に申請するってことになってましたが ・・・ 」


私 「んなもん、できるかっ ! ! ! (T−T) (T−T) (T−T)」



―――人事異動は気分転換 ? ―――



さて、みなさん。上記の件、随分無茶な話だと思われたことでしょう。しかし、外資ではそれほど無茶な話でもないのです。そのことを理解いただくために、外資の人事異動における基本的な考え方をご説明しましょう。


外資日系企業のような、定例の人事異動はありません。そもそも各人が、ある特定分野における「スペシャリスト」という扱いですから、役割がピッタリはまって業績が上がっていれば、人事異動などする必要がないからです。では、どんな場合に人事異動が起きるのか、大きく分けると、以下の 3 点に集約できると思います。


( 1 ) 適切な人材がアサインされていなくて、業績が芳しくないとき
( 2 ) 何か新しいこと(新規事業など)を始めようとしたとき
( 3 ) 業績はボチボチなのでこのままでもいいのだが、ちょっと刺激を与えてみたいとき


今回 Thomas が検討している人事異動は、( 1 ) と ( 3 ) の中間ぐらいではないかと思います。業績が著しく悪いわけではないので、ちょっと「喝 ! 」でも入れようと思ったのではないでしょうか。はっきり言うと、 Thomas の「気分転換」みたいなもんです。


「き、気分転換って ・・・ そんな安易な理由で人事異動をしてもいいのか ! 」って、ちょっと思いますよね。いいんです ! 外資というのは、ルールを守って業績を上げてさえいれば、基本的にはリーダー ( この場合、 Thomas ) の好き勝手にしていいのです。逆に言うと、すべての責任は Thomas が取らされるわけですから、リーダーは、その時々に応じて、最も成果の上がる組織を作っておく必要があるということです。


このように、ある意味「思いつき」で人事異動を発令しようとしているわけですから、週末に思いついて翌週実施 ・・・ なんてこともありえるわけです。確かに、今回のように「年末の金曜夕方に指示して、正月の翌月曜実施」というのは、処理期間が短すぎるような気もしますが、 Thomas にしてみれば、そんな意識はありません。指示が年末になったのは、自分がクリスマス休暇で休んでいたために、指示ができなかっただけです。処理が年末年始になったのも日本人的には奇異な感じですが、外国人にしてみれば、正月など関係ありません。彼らにとってみれば、クリスマスに働いて、正月に休むことの方がおかしな話なのですから。



―――人事異動で始める年始―――
 


「 Hi, Thomas. This is TAKASHI speaking… 」


とは言うものの、あまりにも時間が短すぎるのも確かです。私は Thomas に電話して、何とか締め切りを延ばしてもらうことにしました。


・・・・・・


Thomas 「 Takashi, You OK ?! 」


私 「お、オーケー ・・・ 」
・・・ 結局、 1 月 4 日まで待ってもらうことに「成功」しました。え ? どこが成功やねん、って ?  これが、精一杯なんやぁーーーーーーーー (T−T)、これ以上引き伸ばしたら、「タカシのせいで、組織のオペレーションがうまくいかなかった ! 」とか、後からブチブチ言われるのがオチなんやーーーーーーーーーーーー(T−T) (T−T) (T−T) ハァハァハァハァ ・・・


でも、 1 月 1 日と 4 日の違いは大きい。これで、元旦ぐらいは休めそうやないですかーーーっ、ホッ ・・・ って、なんちゅうレベルの低い願望 ・・・ な、泣ける (T−T) (T−T) (T−T)


「ま、いずれにしても、 A さんと相談しないとな。電話、電話、と ・・・ 」


Aさんに電話したのですが、かかりません・・・


「年末だもんな ・・・ 実家に帰ってるかもしれないし。ま、とりあえず、メール、メール、と ・・・ 」


A さんにメールを出したところ、ものの 5 秒で「返事」が返ってきました。


「は、早っ ! なになに ・・・ 」


【 A さんからの返信メール】
Subject : A is out of office
I will be out of office starting 2006/12/29 and will not return until 2007/1/10.
長期休暇で旅行に出かけております。ご迷惑おかけしますが、宜しくお願い致します。


・・・ ふ、不在時の自動配信メールかい ・・・ なんでやねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん ! (T−T) (T−T) (T−T)

 
次週は、外資における人事異動の中身についてお話します。